東京日本橋三越前にある鍼灸治療室クリスタ
院長の加藤庸子です。
このところ急に寒くなって来たこともあり、お腹が不穏になってしまった方が多いみたいです。
当院の患者さんでも、下痢を訴える方が増えています。
そこで、今回から2回に分けて、下痢について東洋医学を元にアドバイスさせていただきます。
さて、同じ下痢という症状でも人によって原因は様々。
自分がどんな理由で下痢をしやすいのかを知ることで、より効果的な対応策がわかります。
ここでは下痢をいくつかのタイプに分けて、それぞれに適したケアの方法を解説しましょう。
ただ、どのようなタイプの下痢であったにせよ、「これをやっておけば共通して効果が見込める」というものもあります。
その代表例は “腹巻” 。
脱力している方もおられるかもしれませんが、腹巻きの効果は決してバカにできません。
寝る時だけでも良いので、下着の上から腹巻を付けるようにしてください。
それだけで劇的な効果が現れる方も多いんです。
では本題のタイプ別下痢対処法についてお伝えしていきます。
下痢の原因
下痢の原因は大きく分けて2つあります。急性と慢性です。
【急性】 体の外からの影響
・ ウィルス、細菌
・ お腹を冷やした
・ 暴飲暴食、暑気あたりなど
・ 一時的に下痢の症状がでる
これは多分どなたも一度は経験したことがある一般的な下痢症状で、原因が分かりやすいと思いますので、詳しい解説は省きます。
続いて、急性よりも原因がよく分からない慢性の下痢。
お腹が下りやすい理由について、東洋医学的にこんな解釈をしています。
【慢性】 体内からの問題
・ 食べすぎ (食積)
・ ストレス (肝うつ)
・ 消化機能低下 (脾気虚)
・ 極度な冷え体質 (腎陽虚)
私の記事を読んでくださっている方には見慣れた漢字が出て来たと思われます。
「脾」これは以前、消化吸収の要だと解説しました。
同時に、ちょっと聞き慣れない用語も出て来ましたね。
1 食積(しょくせき・しょくしゃく)
長期にわたる食べ過ぎのことです。自分の消化能力を超えて常に食べている状態。
2 肝うつ
ストレスによる下痢。緊張したり憂鬱な時に起こる。
3 脾気虚
消化機能が落ちていることにより長期間続く下痢。油ものを食べると症状がひどくなる。
4 腎陽虚
極度の冷えが体内にあり、朝方におなかが冷えて下痢をしたりお腹がゴロゴロいう。
これだけでも何となくわかった気になるかもしれませんが、もう少し詳しく解説して行きます。
食積(しょくせき・しょくしゃく)
◇食積とは
・ いつも自分の消化能力以上に食べてしまう
・ 消化しきれていないまま次の食事をとる
・ 口が食べたいのではなく脳が食べたがる
などが積み重なり、まさに食・積。量は個人差があるので、たくさん食べる人だけが食積の状態になるとは言い切れませんが、ついつい手が伸びて食べ続けてしまう人は要注意です。
食の細い人でも、旅行や宴会などでお腹が空いていないのに食べている機会が続くと食積になります。
◇食積下痢の対処法
食事
・ 休日はお腹がグーっと鳴ってから食事を摂るようにする(これにつきます)
・ 満腹感を出すために糸寒天を汁物に入れて食べる(腸内環境も整う)
・ 置き換え食材を使ってみる(こんにゃくご飯など)
・ 食べる量を3口くらい減らす練習(できたら徐々に8分目の量)をする
ツボ
・ 耳つぼの飢点・肺・胃・神門 この4点をツボシールなどで常時刺激しておく
・ 足三里 ・・・ 胃腸の働きをバランスよくしてくれるツボ
・ 百 会 ・・・ 精神を安定させるツボ
肝うつ
◇肝うつとは
東洋医学で「肝」は、自律神経や血液の循環・貯蔵だけでなく、筋肉やメンタルにも影響力のある臓器と位置付けられています。
緊張、怒りなどの感情を発散できないまま積み重ねていくと、慢性の下痢になることがあります。
◇肝うつ下痢の対処法
食事
・ 気を発散する作用のある食材をとる
酸味のある果物 (みかん・グレープフルーツなど)
鮭・カジキマグロ・ジャスミン茶 など
※辛み成分の強い食材はとらない
ツボ
・ 中かん ・・・ 胃腸の具合を正常にするだけでなく気の巡りも良くなる
・ 内 関 ・・・ 鬱々とした気分を発散させる
その他
・ 泣いてみる
あえて泣くことで感情(肝)を発散させる効果あり。「これを観たら絶対泣ける」という映画などを用意しておくと役立ちます。
・ 身体を動かす
筋肉を使うことで気持ちの発散をさせます。たとえば、息があがるくらいサンドバックにパンチするとか。
それが無理ならばラジオ体操レベルでもOKで、とりあえずカラダを動かす機会を増やすことが大切です。
肝うつ傾向の下痢の場合、すっきりするまで泣いたり笑ったり、動いたりしてみましょう。
ポイントは「あ~すっきりした」と感じるまでやること。
あとは思い当たるストレス原因、嫌だな、気が重いな、と思う事があれば、片っぱしから書き出してみましょう。
このときにキレイに書こうとしないでください。むしろなぐり書きのほうが効果的です。
それらに優先順位をつけるのもいいと思います。
これは諸問題を解決するためにするのではなく、ただ書き並べてみることに意味があるのです。
不安やストレスや苦手意識を漠然と感じている状態が最悪で、「本当の原因が何なのか」を書き散らかす事で、初めて自覚できる場合が多いのです。
脾気虚
◇脾気虚とは
「脾」については過去の「脾虚」シリーズでもお話しましたが、脾臓とはニュアンスが違います。
東洋医学の「脾」の概念は、現代人には少々分かりにくいと思いますので、ここではざっくりと解説します。
「脾」は飲食物から栄養を取り込み分解してエネルギーと水を全身に送り出すところ。
つまり消化・吸収・代謝などの働きと関係している場所と考えてください。
これが気虚=パワー不足になると、水を処理し切れずもたつき、消化吸収する能力が低下します。
例えとして逆に分かりにくくなるかもしれませんが、大昔の採掘現場を頭に思い描いてみてください。
奴隷達が食事もろくにとらずに切り出した石を黙々と運んでいます。
すると、あちこちで空腹で倒れる人が続出……。
ムチを持った監督が弱った人を打つものだから、余計に人が倒れて行く。
これでどんどん人手が減って、工事はますます遅れてしまう。
このように、身体の処理能力が減るということなんです。
「脾気虚の下痢」には、次のような特徴があります。
・ 油ものを食べると症状がひどくなる
・ 便が泥状
・ ゲップがでやすい
・ お腹が張りやすい
・ 食後眠だるさがでやすい
◇脾気虚下痢の対処法
食事
・ 消化に負担がかかる油ものはなるべく避ける
・ 冷たいものは厳禁
・ 水分をとりすぎない
・ 繊維の多い食材は避ける
脾気虚下痢の場合、消化吸収することをやむなく放棄した状態なので、水分を摂りすぎたり、消化の悪い食材を摂ると、一層下痢傾向が強くなるのです。
ツボ
・ おへそ周辺を温める
・ 中かん ・・・ もはや万能
・ 関 元 ・・・ エネルギーチャージのツボ
その他
・ ストレスではなく純粋に脳の疲労で「脾」を痛めることがある。くよくよと考えこまず、ともかく寝ること。寝不足は厳禁。
・ 疲労をためこまない
腎陽虚
東洋医学でいう「腎」は、「脾」よりは理解しやすいと思いますが、現代医学における腎臓そのものとはニュアンスが違います。
◇腎陽虚とは
「血液を綺麗にして水分代謝を調節する」という本来の機能だけではなく、骨や歯を作ったり、成長や生殖機能も担う臓器と考えられていて、「生命力を担う臓器」であると言われています。
腎陽虚は、簡単に言うと「パワー不足+強烈な冷え /むくみ」です。
腎がエネルギー不足で冷えると、捌き切れない水が体内に無駄に残り、大小便に異常が起こります。
それに加えて冷えが強いので、身体が水分だけでなく栄養分まで吸収できない状態になるのです。
上の「気虚」のところでも書きましたが、「消化吸収することを放棄」この表現が一番分かり易いですね。
「腎陽虚の下痢」には次のような特徴があります。
・ 便は水の様
・ 明け方の気温が低い時間帯に下痢する
・ お腹が鳴って痛みを伴う
・ 未消化物が混じる
◇腎陽虚下痢の対処法
食事
・ 冷たいものは厳禁(←これにつきます)
・ 鶏肉のスープに生姜にんにくなどの香辛料を入れて飲みましょう。温め作用も強くなり気を補ってくれます。
・ シナモンを多用する(腹部を温める作用が強い)
ツボ
・ 足三里 ・・・ 陽のエネルギーを注入するのが上手
・ 関 元 ・・・ これも万能、エネルギーチャージが上手
・ 天 枢 ・・・ 腸の水分調節が上手
お腹にある関元と天枢に対しては、お灸はもちろんですが、使い捨てカイロやレンジでチンの温めグッズもお勧めです。
その他
・ 足を冷やさないよう足首にウォーマーを着装してみる(古い靴下を切って使うだけでも構いません)
・ 足指ストレッチで末端から血流をあげてみる
・ その場足踏みで腕と脚の運動をする
・ 首は絶対に冷やさない(ストール・マフラー・タオルでの保温を忘れずに)
・仙骨を温める
・腹巻きはマスト
などなど、とにかく「冷やさない」を一歩進めて「温める」ことが最重要になります。
実は、腎の陽虚となると気虚の断然上をいく状態なので、ケアにおいてもハードルが上がります。
でも、諦めてはいけません。冷えが取れてくると、むくみや水のもたつきも改善されていきます。出来ることをコツコツと。結果は必ずついてきます
次回はここで紹介したツボを刺激する方法をお教えします。